力について  

(2019年12月31日)



力学とは
表題を「力学」とした教科書は多い。しかし、その内容から判断するといずれも英語のdynamicsであり、動力学(運動力学)である。運動力学のようにxx力学と3(または4)文字熟語で表した「力学」には静力学、熱力学、構造力学、流体力学、破壊力学、量子力学、空気力学、など多数ある。動力学が他のxx力学を代表している訳でもないだろう。ここでは工学で深く関係する動力学と静力学に共通な力に絞って考える。

力の作用
力が作用した物体は運動状態が変化するだけでなくその物体自体にも変化が生じる。動力学では前者のみを扱っている。静力学(構造力学や破壊力学でも)は後者が主体である。では動力学で使われる力と静力学で使われる力に違いがあるのだろうか。否、そうではない。同じ力であり、単位も同じ[N](ニュートン)が使われている。

力の単位

現在の力の単位NはSI単位の組み立て単位の一つとしてニュートンの運動方程式から次のように決められている。
  1Nの力は1kgの質量の物体に作用した時、1m/s^2の加速度を生じる 
この定義が運動力学で使われている力である。しかし、実務において力の測定のために加速度を測るようなことは行われていない。物理としての力の意味から定義があるだけである。それでも、単位の定義である意味は大きくて実質上、力の定義としても見做されることが多いように思われる。
少し昔はNでなくkg-w(キログラム重)が使われた。1 kg-wは約10Nである。

構造力学での力の単位

構造力学や破壊力学ではSI単位の力の定義は無視されている。物体に同じ大きさの力が加わったらその物体は動かない。しかし、その物体に応力・歪みは生じている。構造力学で扱う力は殆どこのような状態にある。
仮に力の単位をフックの法則を背景に決めるとするならば、基準となる精度の良いバネばかりを制定する事になるだろう。実際、力の測定は殆どの場合でバネばかりで行なわれていると言っても過言でない。歪みゲージを利用するロードセルも原理的に同じバネばかりである。
フックの法則を背景に力の単位を定義すれば構造力学では都合が良いが、運動力学では実感を伴わない定義として扱われるだろう。

汎用な力の定義

構造力学でも運動力学でも共通に使える力の単位は、力が作用した物体の変化に着目するのでなく、力はどのように物体に作用するかを見れば良いだろう。実際の力は決して点や線として作用するのではない。力は面を通して作用する。つまり力は圧力として作用するのである。
そこで力は圧力に作用する面積を乗じた量として定義する。
 1Nの力は1Pa(パスカル)の圧力が1m^2の面積に作用した時の大きさである

圧力の定義

現在の圧力の定義を逆にしたものだから圧力の定義を新たに決める必要がある。これは次のような定義になるだろう。
 圧力の単位1Paは1モルの理想気体が1m^3の体積を占めたとき、2300Paとなる大きさである。
2300は大体の値であり、正確な数値は専門家が決めてくれるだろう。定義の体系を矛盾の無いように決めるだけで、実際の手段としての高精度が得られる方法は技術の進歩に応じて変更される。現在の力の測定でも定義とは関係なく殆どの検知器(センサー)が歪みを計測して決めている。

ニュートンの運動方程式

現在の力学は古典力学またはニュートン力学とも呼ばれる。この力学ではニュートンの運動方程式が中心となっている。ニュートンの運動の第二法則とも呼ばれる。
 力Fは物体の質量mと加速度αの間にF=mαの関係がある
この関係式は疑いようの無いものであり、ロケットの軌道解析でも絶対的に重要な不変の方程式である。
このことから力の性質を表した式でもあると見なされてきたように思われる。強いて言えば力の性質を半分だけ表している式である。

慣性方程式

実はこの関係式F=mαは質量の一番重要な性質である慣性を表している。慣性とは運動変化に抗する度合いである。大きな質量ほど動かしにくい。動いている大きな質量は止めにくい。この関係を表しているのがニュートンの運動方程式である。従って運動方程式ではなく慣性方程式と名付ける方が良いと思われる。

慣性力

力は面を通して作用するから2次元力である。外から加わるので外力ともいう。物体は外力を受けると運動状態が変化する。この時の加速度と物体の質量を乗じた量が慣性力として外力と釣り合う。慣性力は3次元であり、体積力ともいう。慣性力が発生しているとき物体内には応力・ひずみが生じている。ひずみを検知することにより慣性力の大きさをしることが出来る。

圧力から定義した力が自然な例

@ 飛行機の揚力
飛行機の揚力は飛行中に飛行機の重量(重さ)と釣り合う上向の力である。この力は空気が翼の下面を押し上げる力で上面の圧力と下面の圧力差である。上面を吸い上げるように描かれている図が多いが、実際には吸引力という力は無い。圧力は常に高い方から低い方に作用する。1気圧より低い圧力を負圧と言うこともあるが相対的な表現としてつかわれているだけで物理的に負の圧力というものは無い。

A ロケットエンジンの推力
ロケットエンジンは燃焼室で発生させた高圧の燃焼ガスをノズルから噴き出させることによって推力を得る。燃焼室内の高圧とノズル面積を乗じるとほぼ推力の大きさになる。ほぼ同じというのはノズルスカートも圧力を得て推力に貢献しているからである。

B 自動車のエンジン
自動車を動かすエンジンは燃焼室に送り込んだガソリンまたは軽油を燃焼させたガスの圧力によりピストンを押す。ピストンの往復運動をクランクにより回転運動に変えて車輪を回している。力のもとは圧力である。

C 油圧機器
ジャッキが出す力は油圧にピストンの面積を乗じた量である。

自然に存在する四つの力
自然には4種の力があるとされている。これらは、電磁気力、重力、強い力、弱い力である。いずれも圧力から定義した日常の生活で経験する力とはかけ離れている。物理学者によっては四つの力と言わずに四つの相互作用と言い換えている。分ってしまえば相互作用と長い言葉より短い力と言ってもかまわないだけである。
圧力で定義した力はミクロにみれば分子と分子の反発力であるから源としては電磁気力相互作用である。強い力と弱い力は原子の内部で働く力であって日常の生活で意識することは無い。重力はGravityの訳語である。日常生活で常に関係の深い相互作用であるが力ではない。


力の伝達速度

力は圧力として作用するから物体内を伝わる力は圧力波であり音速で伝わる。空気中を伝わる音速は340m/s(15度C)であるが金属のような固体中を伝わる音速は一桁大きい。アインシュタインによれば重力波は真空中を光速で伝わるが重力は力でない。力は物体内を伝わる縦波である。真空中を伝わることはない。力に遠隔作用はあり得ない。


万有引力

ケプラーの3法則から仮定を置かずに導けるのは重力加速度の式までである。ケプラーの3法則はチコ・ブラーエの観測データから導きだしたものだが、そのデータとは惑星の見える方角(位置)の座標と時間である。これらのデータを足したり引いたりしてできる次元は、位置、速度、加速度の次元だからである。ニュートンは加速度の項を力/質量で置き換えて力の式にして万有引力の式を導いた。しかし、万有引力と言う力は存在していなかった。
万有引力は力の次元であるが、見かけの力に過ぎない。


重力

地球の重力は地球の万有引力に地球の自転による遠心力を足したものと定義されている。重力と万有引力は殆ど同じなので、天文学では万有引力のことを重力と称している。重力は重力加速度に遠心力加速度を加えたものであって、力ではなく加速度運動である。アインシュタインによれば重力は時空のひずみが質量に与える作用であるがその作用は加速度運動だけである。時空のひずみがある空間を重力場ともいう。宇宙には星が存在するので厳密にいえば宇宙空間すべてが重力場である。しかし、どの星からも十分離れた空間は無重力空間であると考える。
世の中にある加速度計は力を検知してその大きさから加速度の値に変換している。重力は力でないので重力加速度を検知できない。ロケットに搭載する加速度計を校正するときに重力を使うが、これは重力に起因する重さを使っているのであって、重力加速度をそのまま校正に使っているのではない。

重さ(重量)

すべての物体には質量がある。重力場にある物体は運動状態を変化させられる。この変化に伴う加速度運動に逆らうと慣性力が発生する。これが重さ又は重量と称する力である。重さは重力に起因する力であるが重力と混同してはならない。


重力質量

ニュートンの運動方程式の質量を慣性質量といい、万有引力の式での質量を重力質量と言っているが、万有引力の式からの導出を見ても分るように慣性質量しかない。重力質量の概念は不要であった。
ニュートンは万有引力の式を天下りに与えていて、ケプラーの法則から導いたとは言っていない。力の大きさは距離の逆二乗に比例すると考え、さらにその大きさは質量に比例するだろうと考えて作った式かもしれない。しかし、この場合でもその質量は慣性質量である。

(了)


戻る