力の単位[N]の定義を変えよう  

(2018年8月23日)


はじめに

 力とは多くの意味で使われている用語の一つですが、それでも物理用語としての力は比較的簡単に定義できます。物理学としても数学ほどではなくとも用語は明確に定義して議論すべきなのにあいまいなところがあることを「力とは何か」で7年前に指摘しました。

 さらに力の大きさの定義は変更した方が望ましいのではないかと「力の定義」で3年前に提案しています。

 これまで積極的に賛同してくれた人がいませんでしたので、再々度力の大きさの単位である[N] (ニュートン)の定義変更を提案したします。3年前の提案から理由を詳しく述べ提案自体も少し変更しています。

 力の単位の定義はどうであっても構わないという意見もあるでしょう。しかし、力の単位の定義が力の概念を構成する要素としては大きいものがあるのではないでしょうか。この力の概念を正確に認識すると自然の理解で世間では一つ誤解されていることを是正できます。

 

1. 現行の力の単位[N]の定義

 現在の力の大きさんの単位は[N](ニュートン)が国際度量衡委員会で次のように決められ、SI単位の中で組立単位の一つとされています。この定義の背景の法則はニュートンの運動の第2法則(ニュートンの運動方程式とも呼ばれている)です。ニュートン力学(古典力学)の根幹を成す式とも言えるでしょう。

 力1[N]は質量1[kg]の物体に作用したとき、その物体に1[m/s2]の加速度を与える大きさである

 

2.現行定義が不適切であること

 定義というのは何かを決めるだけですからその定義が正しいとか間違っているとかで判定は出来ません。適切ななものか不適切であるかどうかの判定は出来ます。この意味で現行の力の定義は次の理由から不適切だと言わざるを得ません。

(1) 両方から力が加わると動かない

 二人の力士が土俵上でがっぷり四つに組んだ状態では二人は動きません。この状態では加速度ゼロですが力は出し合っているのです。現行の力の単位の定義はこの状態を表していません。綱引きでも両者の力が均衡していると動きません。

(2) 日常の生活で使う力の概念と合っていない

 大きな力が必要なのは重量挙げでしょうか。くぎ抜きで釘を引き抜くときなど力を入れますが運動を感じることはありません。

(3) 力の釣り合い状態を表していない

 一方から力を加えると加速度運動を生じるのでその時質量を乗じた量が慣性力です。この慣性力が外力と釣り合うというのがニュートンの運動方程式ですが、外力と外力の釣り合い式を示すものではありません。多くの場合外力と外力が釣り合って力が出ているのですが、現行の定義式はこの状態を表していません。

(4) 座標系に依存する

 力は座標系に依存しませんが、この定義式では座標系に依存してしまいます。

(5) 力が関係する多くの分野で使われていない

 構造力学、材料力学、土木工学、建築工学など、多くの分野で力は重要な用語ですが力の単位で現行の定義は無視されています。

 

3.力の単位[N]の新しい定義

 加速度に着目した現行の力の単位の定義では不適切であるから応力・ひずみに着目してフックの法則を背景に定義し直してはどうかとの提案が3年まねのブログ「力の定義」でありました。読み返してみますと力の定義と力の単位の定義を正しくかき分けておりません。

 改めて、適切な力の単位[N]の定義を考えて見ます。

 加速度にしても応力・ひずみにしても力が作用した物体の変化に着目したものでした。むしろ、力とはどのように作用するかに着目します。すると力は常に面圧の形で作用していることに気が付きます。力は面で作用するのであって、線でも点でも作用できません。

 ロケットのエンジンが推力を発生するとき、燃焼室での燃焼ガスが燃焼室とノズルスカートを押しています。この圧力を積分した値が推力です。従って、力は圧力がかかる面積を積分したものなのです。

 現在、圧力の単位[Pa](パスカル)が次のように定義されています。

 圧力1[Pa]の大きさは1[N]の力を1[m2]の面積で受けたものである

 この定義を逆に使えば良いのです。

 1[N] の力は面積1[m2]に1[Pa] の圧力がかかった時の大きさである

 現在圧力の基準として適切なものが見つかりません。世界中で大気圧が1気圧が不変であるなら大気圧を基準にすればよいのですがとてもそうはいきません。フックの法則から力基準器を作っても精度の観点からは期待できません。

 従って、実務上は現行の方式を取らざるを得ないでしょう。しかし、単位の定義は実務とは関係なく決めて良いのです。実際、SI単位で7つある基本単位の一つである電流の単位[A] (アンペア)は実測できるような定義ではありません。

 ニュートンは質量を基本単位として考えるのでなく、密度を基本単位として質量は密度に体積を乗じたものとしました。今では誰も賛同していませんが、単位系としてどれを基本に取るかは矛盾のない方法であればそれで良いのです。

 

おわりに

 新しく力の単位[N] を圧力で定義したことにより、ニュートンの運動方程式が別の単位に利用可能になりました。ニュートンの運動方程式は見方を変えれば質量の性質に基づいた慣性方程式です。この式は質量の定義に使うべきでしょう。

 新しい力の単位の定義により、力のイメージが少し変わるでしょう。すると、加速度運動しか起こさない重力(Gravity)は力(Force)でないことも合点の行くことでしょう。Gravity is not a force!

(了)


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