アインシュタインの発見  

(2018年11月12日作成)
(2018年11月17日改訂)


 アインシュタインは1905年に特殊相対性理論、他を発表し、1916年に一般相対性理論を発表しています。一般相対性理論は超がつくほど難解ですから当初は評判になりませんでした。しかし、エディントン卿が一般相対性理論が予言した重力が光を曲げることを皆既日食を利用して実証するや、各地で講演を依頼されるほど有名になりました。

 アインシュタインは日本でも講演していますが、その時も自身が生涯で最大の発見と言っていることがあります。それは「自由落下する物体には重力が消えている」ということで1907年に気がついたそうです。

 おそらく聴衆の人達は「何だそんなことか」と思ったのではないでしょうか。自由落下中の物体が無重力状態になることは、高いところから飛び降りれば「ふわっと」することを誰もが経験するからです。また、自由落下で無重力状態になることはニュートンも気がついていたことです。その時以来、無重力状態になるのは重力と慣性力が釣り合うからだと説明されていて、今でもその説明がなされています。

 アインシュタインが自身で「生涯最大の発見」と言っていることが自由落下で無重力状態になる現象の表現を「重力が消えている」と言い換えただけだったのでしょうか。それではあまりにもおかしいではありませんか。

 アインシュタインはニュートンに敬意を払って、「重力と慣性力が釣り合っているからという説明は間違い」であると露骨には言わなかったのでしょう。重力が消えていることに気がついたとは穏やか過ぎる表現です。もう少し、明確に否定してくれていたらニュートン力学も少しばかり修正加えられたに違いありません。

 アインシュタインの思考実験をここで、丁寧に振り返ってみましょう。図はスタンフォード大学のホーム頁のどこかで見つけたものをコピペしたものです。図-1と2に分けたこととこれらのキャプションは私が付けたものです。

          図-1 重さと力

 図-1の左側はアインシュタインがエレベーターの室内にいる状態で、どこかの階で止まっているときを表しています。エレベータのドアは閉じているし、窓がありませんから外も見えません。昔のエレベータには階数指示器もないので自分が何階で止まっているのかも分かりません。

 静止している室内では物は下に落ちます。図で黒く描かれたものはカバンでしょうか、何か分かりませんが室内で空中にあるものは床に落ちることを示しています。また自分の足は自重がかかっていることを感じています。この図では秤が室外に描かれていますが室内で計れば体重を示すでしょう。(秤も室内にあるのでこの絵の間違いです。)

 アインシュタインの質量をm(キログラム)であったとします。地上での重力加速度をg(=9.8m/s^2)ですからアインシュタインの体重WはW=mgです。Wの単位はN(ニュートン)です。m=60(キログラム)とするとW=600(ニュートン)の重さを足の裏に感じます。体重計は600Nを示します。キログラム表示ですと60kgを示すでしょう。

 現代の体重計はキログラム表示のものが殆どですから、それらは体質量計と呼ぶべきなのです。

 図-1の右側はアインシュタインがいるエレベータの室がロケットにより地上から離れています。ロケットの推力がちょうど浮く程度の力であるとロケットは上にも下にも行きません。このようなとき、室内ではエレベータがどこかの階で止まっているときと全く同じ状態なのです。室内にある物は落ちるし、自分の体重も同じ値を示すのです。

 ロケットの推力をF(ニュートン)でロケットがこの力で得られる加速度をαとします。中にいるアインシュタインはmαの力(慣性力)を足に受けます。もし、ロケットが発射台から少し浮いた状態で推力を調整し、α=gの状態を保つとどうでしょうか。中のアインシュタインはロケットが浮いた瞬間だけ、「発射したかな」と感じるかもしれませんが、その後はロケットの発射前と全く違いが分かりません。

 ロケット全体の質量をMとするとF=Mαの関係があります。Mαを慣性力と呼びロケットの推力Fと釣り合っていると考えるのがダランベールの原理です。何もない宇宙空間ですとロケットは加速度αで運動しています。中のアインシュタインはmαの力を足に受けていることは変わりません。

 ロケットが地上から垂直に発射されるときα=gであると、ロケットは地上から少し浮いた状態で上にも下にも運動しません。このときアインシュタインはロケットが作動しているのか発射前なのか分からないのです。区別ができない状態です。mg=mαと同じなので、mαを慣性力という以上、mgも慣性力なのです。発射前に地上から足に受ける反力は体重である慣性力に等しいことになります。

 エレベータは床の下から受ける力が地上の反力かロケットの推力なのか全く区別がつきません。床から受けている力が区別がつかないのですから、室内にいるアインシュタインにはどんな検知器を持ってきても区別できません。

          図‐2 無重力状態

 図‐2の左側はアインシュタインのいるエレベータ室がどの星からも遠く離れた空間にある状態です。このとき、どの星からの影響もありませんから重力はゼロです(g=0)。どちらの方向に動くことは考えられません。従って、このエレベータ内の物体はすべて「ふわっと」浮いている状態であろうと考えられます。実際にどの星からも遠く離れた場所に行くことは出来ませんから想像するだけです。

 図‐2 の右側は地球上でアインシュタインのいるエレベータのロープが切れて自由落下している状況です。外には空気がないものと仮定しますと抵抗がありませんから重力に従って落ちます。するとエレベータの室内では「ふわっと」浮いてしまうのです。この状態は図‐2の右側の状態と全く同じであることにアインシュタインは気がついたのです。後の人は区別ができないことは同じである、そしてこれは等価原理であると(難しく言って)認めています。

 自由落下による空間は重力のない空間と同じである。つまり、この二つの空間では区別がつかないということはすべての物理法則が同じように成立しなければならないということなのです。この条件を満たすようにはどうなっていなければならないかを表現するため、アインシュタインは数学者の助けを得て一般相対性理論を完成させたのです。

 国際宇宙ステーション内ではすべての物体が「ふわっと」浮いている状態にあることを今やだれもが見ることができます。国際宇宙ステーションは地球の表面から約400qしか離れていませんから、重力の大きさは地球表面の約89%もあります。しかし、無重力状態になっているのは重力と遠心力(慣性力)が釣り合っているからという説明がJAXAのホーム頁でも未だになされています。

 しかし、これが間違いだったのです。国際宇宙ステーションは常に地球に向かって落下していることに変わりありません。水平方向速度が秒速8q近くもあるのでいつまでたっても地表に到達しないだけです。自由落下状態にあることに変わりはないのです。

 国際宇宙ステーションのように常時自由落下している物体は力が何も働いていない遠い宇宙空間にあるのと同じであることがアインシュタインの発見です。力の釣り合い状態ではなかったのです。

 自由落下状態になると消えてしまう重力とは何でしょうか。図-1と合わせて考えると、重力による物体への影響は力としてでなく加速度運動でしかないと結論できます。アインシュタインの生涯で最高の発見とはこのことだったのです。

 重力が力でないということはニュートンの万有引力が仮説であり、力としては存在し無かったということにもなります。万有引力加速度だけだったのです。他にもニュートン力学で修正すべき事項がいくつか出てきますので影響は大きいと言えます。

(了)


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