リスクについて

(平成21年10月27日)

 リスクという用語は経済分野を始め、安全分野でも広く使われています。このため、リスクの定義自体が乱れています。時に不適切な定義もあります。多くの場合、リスク事項というべきところをリスクと区別しないで使っていることが混乱の最大の要因です。

 リスクとは「損失の期待値」です。この定義は意思決定理論で有名なワルドが1948年に定義したものです。

 NASAでもJAXAも昔から変わらずに、当該事象が生じたらもたらされる損失の大きさとその事象が発生する度合いを組み合わせたもの、という定義になっています。

 ところが、組み合わせただけではリスクが二つの要素のまま、つまり2次元量で表現されたままであり、二つのリスクを比較できません。リスクは大きい小さいを比べることに意義があるのです。

 世間には、これら二つを乗じたものと定義している場合もありますが、リスクを一次元量で表現するためと明確に記載されていません。

 ここで損失とは失われる価値であり、従って損失は価値の次元を持ちます。価値の単位は、一般には、円やドルの金銭単位です。テーマによってはリスクの単位が人間の命であったり、寿命換算で表現される場合もあります。

 

 その事象が発生する度合いはNASAの解釈は(従ってJAXAにおいても)頻度であるとしています。しかし、これは間違いで、発生確率とするのが正しいのです。

 

 頻度としたのでは1回限りのことに対して、リスクを定義できないことになります。頻度は確率ではありません。確率の定義自体に頻度概念が採用されていることにも混乱の根があります。確率の定義を正しく直すことが先決なのです。上述の「乗じたもの」をより一般的に、かつ正確に、定義すると損失の期待値となるのです。

 

 リスクは「価値」と同じ次元であり、同じ単位で表現される量です。従って、経済評論家がハイリターンを期待してハイリスクの事業を行うときに、「リスクをとる」という表現をよく使いますが、1万円のリスクなのか1億円のリスクなのか数字で表現すべきなのです。

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