(2015年11月25日)
平成27年11月24日午後4時頃、H-IIAロケット29号機は種子島からカナダの商業衛星を載せて打ち上げられました。この衛星は静止衛星ですから静止軌道への遷移軌道に打ち上げられたものです。これまで種子島から打ち上げられる静止衛星は、高度約200kmのパーキング軌道を採って赤道を越えるあたりでエンジンを吹かして遷移軌道に入れます。この後、衛星を直ちに分離していました。そして、衛星が高度約36000kmの遠地点付近に達したとき、衛星に搭載されたエンジンを吹かして静止軌道に入るものでした。
種子島は緯度が約30度ですので遷移軌道の軌道面も30度ほど傾いてしまいます。近地点では速度が速いため近地点で軌道面を赤道面に合わせるには燃料が沢山必要になり、極めて不利なのです。遠地点でのエンジン噴射のときに軌道面を赤道面に合わせる必要がありました。
このため、アリアンが赤道近いギアナの射点から打ち上げる場合に比べて、衛星に燃料を多く搭載しなければならず、H-IIAがアリアンに比べて衛星受注競争で決定的に不利な要素でした。これを改善するべく、H-IIA29号機では衛星を搭載したロケットが遷移軌道に入った後も衛星を直ちに分離するのではなく、遠地点まで行ってロケットのエンジンを作動させ軌道面を赤道面に合わせてから衛星を分離したのです。このようにすれば衛星から見て、アリアンでギアナから打ち上げる場合も、H-IIAで種子島から打ち上げる場合も衛星の設計は同じ条件で良い事になります。
H-IIAロケットの高度化の主要点は以上のことでした。さて、このブログではロケットの説明をすることが目的ではありません。ユー・チューブで打ち上げの生中継をご覧になっていた方も多くおられると思います。次のアナウンスがあったことを覚えておられるでしょうか。
1/2段分離後、直ちに2段エンジンを作動させ、高度約200kmで秒速が8km近くになりますと、第1回目のエンジン停止を行いパーキング軌道に入ります。この時アナウンスは「ロケットは慣性飛行に入りました」と言いました。赤道と交差する地点に達するまでは「ロケットは慣性飛行を続けています」とのアナウンスもありました。そして、赤道近くでのエンジンの2回目の噴射が終わり、衛星とロケットが遷移軌道に入ると「ロケットは再び慣性飛行に入りました」とのアナウンスがなされました。
エンジンを切った後、いわゆる惰性で飛行している期間を慣性飛行と言っているわけです。NASAなどの英語では
inertia flight ではなく coast flight または coast phase
と言っています。coastはもともと船の航海で使われた用語です。coast の意味は「海岸」ではなく (of a person or
vehicle) move easily without using
power で動力を使わない動きを指しているようです。従って、日本語では慣性飛行と訳しても適切なように思われます。
慣性といえばニュートンの運動の第一法則が慣性の法則とも呼ばれています。物体に何も力が働かない時、その物体が静止していれば何時までも静止を続け、運動している物体は等速直線運動を続けるというものです。エンジンを切ってパーキング軌道に入ったロケットと衛星はほぼ高度200kmを保ち等速で直線運動を続けているのでしょうか。高度200kmでは空気が殆どありませんから等速は守られているようです。しかし地球の表面に沿って飛んでいますから直線とは言えないでしょう。近似的に長い距離でなければ直線と言っても構わないかもしれません。ほぼ慣性運動といって良さそうにも見えます。しかし、問題は重力です。何も力が働かない時の運動が慣性運動なのですから、重力を力と見るニュートン力学に固執する限り、 慣性運動とは言えないことになります。高度200kmでも重力はまだ地表の90%程度はあります。
H‐IIA29号機は第2回エンジン停止の後、遷移軌道に入りましたが、遷移軌道では高度もどんどん高くなり、速度も遅くなります。慣性飛行と言ってよいのでしょうか。国際宇宙ステーションは高度約400kmのところを秒速8km近い速度で回っています。慣性飛行と言って良いのでしょうか。重力を力と見る現在のニュートン力学に固執する限り、慣性飛行とは言えないことになります。アナウンサーは間違ったことを言っていることになります。
ところがアインシュタインが最初に気がついたことですが、重力は力でないのです。外力が何も働かず重力に従っただけの運動を慣性運動ということが正しかったのです。空気のない高空で物体が真下に落ちることだけでなく、国際宇宙ステーションの運動も、自由落下運動で慣性運動なのです。遷移軌道を飛行する衛星とロケットの慣性運動は自由落下と言う言葉にそぐわないのですが、自由落下に変わりはないのです。何故なら自由落下とは重力に逆らわない運動だからです。自由落下と慣性運動は同義です。
少なくとも太陽系の内部では重力の無い空間というものは存在しないのですから、ニュートンの運動の第一法則で言うところの等速直線運動というのはあり得ない状態です。このことからも、ニュートン力学は少し見直しの必要があります。
(了)
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